第10回:リリーとイベリス──「秘密の園」で守られた記憶と、神の物語へのささやかな反逆

ステラーブレイド解剖

※本記事には『Stellar Blade(ステラーブレイド)』本編および
隠しクエスト「秘密の園」、エンディング分岐に関するネタバレが含まれます。
未クリアの方は閲覧にご注意ください。


はじめに──「秘密の園」という、物語の端っこにある大事な場所

ステラーブレイドの終盤、
軌道エレベーターへ向かう直前に発生する特別なクエストがあります。

リリーの好感度を100%まで上げていると、
彼女からこんなお願いをされます。

「実はお願いがあります。先にちょっとだけ寄ってほしいところがあるんです」
「昔使ってた作業場があそこにあるんだけど、そこに置いてあるものを取りに行きたくて…」

そこから始まるクエストが**「秘密の園」**。

このクエストを通じて初めて足を踏み入れることになるのが、
水没したエイドス9に残されたリリーのアトリエ──
そして、彼女が「ずっと一人にしてしまっていた」仲間・イベリスの眠る場所です。

この記事では、

  • リリーとイベリスの関係
  • 「秘密の園」という場所の意味
  • そこに残されたメモと、リリーの“選択”
  • それがラストのイヴとリリーの物語にどうつながっていくのか

を、これまで考えてきた
「記憶」「選択」「責任」というシリーズ全体のテーマと重ねながら、丁寧に見ていきます。


1. リリーが案内する「秘密の園」──水没したエイドス9と、小さなアトリエ

1-1. 軌道エレベーターに向かう前の「寄り道」

軌道エレベーターへ向かうことが決まり、
いよいよ物語もクライマックス……というタイミングで、
リリーはイヴとアダムにこう切り出します。

「実はお願いがあります。先にちょっとだけ寄ってほしいところがあるんです」
「実は…一緒にいた仲間がいるんです。同じ部隊の生き残りで…」

行き先はエイドス9
かつて人々が暮らしていた街ですが、
コロニー墜落時に生じたダムの崩壊によってそのほとんどが水没してしまった場所です。

ここは通常のメインルートでは訪れないエリアであり、
このクエスト「秘密の園」を通じて初めてアクセスできる、
いわばリリーのためだけに用意された舞台です。

崩れ落ちた建物と水没した街並みを抜けて進んでいくと、
やがて、小さな島のような場所に建つガラス張りの温室が見えてきます。

それが、リリーのアトリエ──**「秘密の園」**です。

1-2. 緑に満ちたアトリエで見せる、リリーの素顔と、二人が見上げる未来

アトリエに足を踏み入れたイヴとアダムは驚きます。

アダム:「驚いたな…」
イヴ :「信じられない…緑が生い茂ってて…小鳥までいる」
リリー:「あたしの自慢のアトリエへようこそ!ここはお気に入りの庭園なんです。見てってください!」

外の世界は荒廃し、
ほとんどの人が「生き延びる」ことだけで精一杯な中で、
ここだけは別世界のように穏やかで、緑と光に満ちた空間です。

その中心で、リリーは少し誇らしげに、少し照れくさそうに、
「自慢のアトリエ」を二人に紹介します。

  • サポートエンジニアとしての顔でもなく
  • マザースフィアを信じる“兵士”としての顔でもなく

ここには、ただ「この場所が好きで、ここを大切にしてきた一人のリリー」がいます。
「リリーの素顔」は、まさにこの瞬間に一番よく現れているのだと思います。

そして、ここで挿し込まれる、ほんの短いシーンがあります。

小さな鳥がドローンの上にとまり、
イヴがそっと手を伸ばすと、ふわりと飛び立ちます。

カメラはその動きを追いかけ、
飛び立った小鳥の先にいるイヴとアダムを、引きの構図で映し出します。

二人は同じ鳥を目で追いかけ、
同じ方向に顔を向けたまま、ゆっくりと視線を上げていく。
やがて小鳥は、差し込む太陽の光の中に溶けるように見えなくなります。

そこにあるのは、
あたたかな陽光に照らされた二人の横顔、後ろ姿と、
その先に広がる、まだ形の見えない「これから」の空。

このショットは、ほんの一瞬で通り過ぎるカットですが、

  • 二人が同じものを見つめていること
  • その視線の先に、やわらかな光が広がっていること

によって、どこか

「人類の未来を、ともに見上げる二人」

というイメージがさりげなく重ねられているように感じられます。

この一瞬のカットは、ステラーブレイド全編の中でも、私がいちばん好きなシーンです。
二人が同じ方向を向いて、同じ小さな命を目で追いかけ、その先にあたたかい光がある──
その画だけで、「この二人が目指す未来のぬくもり」まで伝わってくるように思うからです。

リリーが大切に守ってきた「秘密の園」は、
彼女自身の素顔を見せてくれる場所であり、
同時に、アダムとイヴが同じ方向の未来をちらりと共有する場所でもある。

だからこそ、この短いシーンは、
リリーとイベリスの物語だけでなく、
三人の“これから”をそっと映し出す、大事なワンシーンになっているのだと思います。


2. イベリスという少女──「汝の尊き記憶よ」が届かない場所

2-1. カプセルの中で眠る、かけがえのない仲間

アトリエを探索していると、
人ひとりが眠れそうなカプセル状の装置が見つかります。

そして、リリーの口から
そこで眠り続けている少女の名前が語られます。

「イベリス…コロニーいちのハッカーで…かけがえのない仲間でした。
イベリスは…1年前に傷を負って眠りについたんです

カプセルのパネルには、

「Iberis – Remember」

という文字。

リリーはそっとイベリスの額にキスをし、

「ずっと1人にしてごめんね…イベリス。また会いに来るね」

と語りかけます。

ここで重要なのは、

  • イベリスはゲーム中で一言も喋らない
  • プレイヤーは、彼女自身の台詞から人となりを知ることはできない
  • それでも、「リリーがどう想っているか」を通してだけ彼女を知る

という構図です。

イベリスは、
プレイヤーにとっては“直接の思い入れ”を持ちにくいキャラクターでありつつ、
リリーにとってはかけがえのない存在として描かれます。

だからこそ、このシーンの感情の重心は、
「イベリス」そのものというよりも、

  • 彼女を大切に想い続けているリリー
  • そして、その記憶を守り続けてきた時間

の側に置かれているように感じます。

2-2. リリーとイベリスの「2年」と「1年前」──時間の整理(自分なりの解釈)

ここで少しだけ、
二人の時系列について、自分なりの整理を書いておきます。

作中では、

  • イヴとアダムが最初に出会ったとき、リリーは 「身を潜めて、ほかの部隊が来るのを2年近く待ってた」
    と語る
  • 一方で「秘密の園」では、 「イベリスは…1年前に傷を負って眠りについたんです」
    と言っています

この「2年」と「1年前」の関係が、
少し分かりづらく感じられるポイントかもしれません。

自分は、次のように解釈しています。

  • 第五空挺部隊が降下してから現在までが、およそ2年
  • そのうち最初の約1年
    → リリーとイベリスはエイドス9で一緒に生きていた
      (アトリエを作り、この場所を“楽園”として過ごしていた)
  • 1年前
    → イベリスが傷を負い、カプセルで眠りにつく
  • そこからの約1年
    → リリーは、自分が乗ってきたポッドにこもり、
      「ほかの部隊が来るのを待っていた」
      (=イヴたちと出会う直前までの期間)

つまり、イヴたちと出会ったときの

「ずーっと1人で寂しくて……」

という言葉は、

  • イベリスを眠らせてからの最後の1年
    を指している
  • その前の1年(イベリスと過ごしていた時間)は、
    あえて語っていない

とも読めます。

出会ってまだ日の浅い相手に、

  • 一緒に生き延びてきた仲間の存在
  • その仲間が眠りについたこと
  • 自分がどんな選択をしたのか

まで打ち明けないのは、むしろ自然です。

だからこそ、
好感度が十分に上がったあとにだけ解放される「秘密の園」で、
リリーは初めてイベリスのことを打ち明けてくれる。

「2年」と「1年前」のズレは、
そんな**「語っていない1年」**があることで、むしろ腑に落ちる気がしています。

2-3. 「汝の尊き記憶よ」をあえて口にしないということ

ステラーブレイドの世界では、

「汝の尊き記憶よ、永久にあれ。我らに救いあれ」

という言葉が、
祈りや弔いのフレーズとして頻繁に使われます。

  • 死者を弔うとき
  • 犠牲になった誰かを悼むとき
  • マザースフィアへの信仰とセットで語られるとき

この世界の多くの人々が、
この言葉を「神聖な文句」として口にしてきました。

しかし、イベリスのカプセルの前で、
イヴもリリーも、この言葉を使いません。

代わりにあるのは、

  • リリーの、個人的な謝罪と約束
  • 「また会いに来るね」という、ごく小さな、しかしとても切実な言葉

だけです。

この「言わない」感じが、とても象徴的です。

  • マザースフィアの介在しない、個人と個人の関係
  • 神への祈りではなく、「友達として」交わされる約束
  • 誰かが作った“正しい弔いの言葉”ではなく、リリー自身の言葉

そう考えると「秘密の園」は、

  • マザースフィアのネットワークから切り離された場所であり
  • 「汝の尊き記憶よ」という“神のフレーズ”すら入り込まない場所であり
  • それでも確かに、誰かを想い続けている場所

として、
ステラーブレイド全体のテーマと静かにリンクしているように思えます。


3. 「あなたはどちらを選びますか?」──メモに書かれた二つの選択肢

3-1. アトリエに残された一つのメモ

アトリエの中には、
人目につきやすい場所に一つだけ、こんなメモが残されています。

あなたはどちらを選びますか?

メモリースティックをマザースフィアへ送る
・マザースフィアとひとつになりますか? はい
・データは汚染されませんか? はい
・ネットワークを通して他人と繋がりますか? はい
・これは崇高な行いですか? はい

メモリースティックのデータを残す
・マザースフィアとひとつになりますか? いいえ
・データは汚染されませんか? いいえ
・すべてのメディアから切断されいつまでも孤独にいますか? はい
・誰にも知られることなく最期を迎えますか? はい

最後の瞬間、あなたはどちらを選びますか?

これは、
かつてネットワークと共にあることを「崇高」と教えられてきた人々が、
最期の瞬間に突きつけられた二択でもあります。

  • 神(マザースフィア)と一体化し、ネットワークに溶けていくか
  • 個の記憶を抱えたまま、誰にも知られず孤独に死ぬか

そのうえで、
リリーがどうしたのかは、
イベリスのカプセルと、その中身が雄弁に物語っています。

3-2. リリーはどちらを選んだのか

リリーの台詞からわかることは、はっきりしています。

「この中には特注のハッキングシステムと、イベリスの記憶が詰まってる。
あの子が残してくれた…大切な形見…」

つまりリリーは、

  • イベリスのメモリースティックをマザースフィアに送らず
  • ネットワークに溶かすこともせず
  • 自分の手元に、大切な形見として残した

という選択をしています。

これは、あのメモに書かれた二択で言えば、

「メモリースティックのデータを残す」

側に立ったということです。

そしてそれは同時に、

  • 「マザースフィアとひとつになる」ことを選ばず
  • 「崇高な行い」と教えられてきた道から外れ
  • 誰にも知られず、孤独に終わる運命にあった記憶を、自分の手で抱え続ける

という、とても個人的で、
とても静かな**“反逆”**でもあります。


4. 「神を信じる兵士」リリーと、たった一度の「NO」

4-1. マザースフィアを疑わないリリー

作中のリリーからは、序盤〜中盤にかけて
かなり強いマザースフィア信仰が見られます。

レイヴンのレガシーを見て、
マザースフィアが「人類が作り出したAI」に過ぎないことを示唆される場面では、

「こんなの全部デタラメに決まってる。どう考えてもおかしいよ!」
「そんなの神への冒涜だよ!信じらんない!」

と強く反発します。

この時のリリーは、

  • マザースフィアを、純粋に「神」として信じていて
  • その言葉や計画を疑うことなど考えたこともなく
  • 「汝の尊き記憶よ」というフレーズも、信仰とセットで受け入れている

いわば**「神に従う兵士」**です。

4-2. それでも、イベリスの記憶だけは渡さなかった

そんなリリーが、
イベリスのメモリースティックだけはマザースフィアに送らず、
自分の元に残した。

ここでポイントなのは、

  • イベリスが眠りについた1年前の時点で、すでにその選択をしていた
  • 「秘密の園」でイヴたちが見ているのは、
     その過去の決断と、それを今も守り続けている現在

だということです。

リリーは、

  • マザースフィアを神として信じながらも
  • その教義に狭義には従わない選択を、すでに一度している

と言えます。

それは、声高な反乱ではありません。

  • 旗を掲げるわけでもなく
  • 神を否定するわけでもなく

ただ、自分にとって大切な人の記憶だけは、譲らなかった。

とてもささやかで、しかし芯の強い「NO」です。


5. イベリスの記憶が、“神の物語”を書き換える

5-1. クライマックスで「想定外」を起こすメモリースティック

物語のクライマックス、
ネストでの決断でアダムの手を取った場合、
マザースフィア側のロボットに取り込まれかけたリリーは、
イベリスの残したハッキングコードによって命を救われます。

つまり、

  • かつてリリーが、マザースフィアに返さずに残した記憶が
  • 未来のどこかで、「想定外の介入」として神側の計画に割り込んでくる

という構図になっているわけです。

もしあのとき、

  • メモリースティックをマザースフィアに送っていたら
  • 「崇高な行い」としてネットワークに溶かしてしまっていたら

クライマックスでリリーを救う術はなかったかもしれません。

リリーの、
教義に背いてでも記憶を返さないという選択が、

  • マザースフィアの実験的な物語の前提を乱し
  • 「神の側が想定していなかった結果」を生み出す小さなバグ

として働いている、とも言えます。

5-2. イアンの「実験」仮説への、静かな“例外”

EVEプロトコルに関するイアンのメモでは、こんな仮説が語られていました。

「もしかしたらマザースフィアは、不完全な天使がこの地球でどのような進化を果たすのかを見ているのではないか」

不完全な天使
地球という実験場
そこでどんな変化・進化が起きるかを観測しているAI。

EVEプロトコルは一見、
そんな「長期実験」として描かれているようにも見えます。

しかし、リリーとイベリスのエピソードは、
この仮説に対して

「実験されるだけの存在ではなく、自分たちの意思で条件を書き換えてしまう者たちもいる」

という、ひとつの“例外”をそっと差し出しているようにも見えます。

  • マザースフィアから見れば、
    天使たちは「星が瞬く夜に生まれた、実験のためのサンプル」かもしれない
  • でも、リリーにとってイベリスは、
    データでもサンプルでもなく、「コロニーいちのハッカーで…かけがえのない仲間でした」
    という、たった一人の友達

その友達の記憶を、

  • 神のネットワークに還元することを拒み
  • 自分の手で抱え続けることを選び
  • その結果として、神の物語に想定外の分岐を差し込んでしまう

イヴが、
マザースフィアとアダム──二柱の神のプランを知ったうえで、
「もう私は誰かの言いなりにはならない」と宣言し、
物語そのものの進み方を内側から選び直す存在だとすれば、

リリーは、
その物語の足元で、
どの記憶が“使われるデータになるか”という条件を内側から書き換えてしまう存在だとも言えます。


6. アダムが見ている「個人としてのリリー」

最後に、アダムの視点から
リリーとイベリスのエピソードを少しだけ見てみます。

アトリエを訪れたあと、
アダムはこう言います。

「地上では誰もが痛みを抱えて生きてる。リリーだってその一人だ」

アダムはイヴのことを、物語のあちこちで

  • 新人類構想を実現するための「鍵」
  • 自分と融合するための「器」

として扱っている側面があります。

一方でリリーに対しては、

  • 「地上で痛みを抱えて生きている誰か」の一人として
  • XION の住人たちと同じく、「個人」としての視線を向けている

ように見えます。

手を取らないルートのシーンで、

「リリー…お前と 戦う気はない」

と戦闘の対象から外しているのも、
その姿勢の表れと言えるかもしれません。

この点で、アダムは決して

  • アンドロエイドスを完全に見下している存在

ではなく、

  • 自らのプランのためにイヴを“鍵”として見てしまう一方で
  • それでも、地上に生きる一人ひとりの痛みを見ようとしている

という、矛盾を抱えた存在として描かれています。

その意味でも、「秘密の園」での一幕は、

  • リリーという一人のアンドロエイドスが抱える痛みを、アダムに見せる場面であり
  • イベリスという少女の記憶が、神と天使の物語の外側に存在していることを示す場面でもあり
  • アダム・イヴ・リリー・マザースフィアの関係を、もう一段複雑にしてくれるパート

なのだと思います。


7. おわりに──神の物語の“端っこ”に残された、小さな楽園

「秘密の園」は、
メインストーリーを追うだけでは見逃してしまうかもしれない、
小さなサイドエピソードです。

そこには、

  • 水没した街の片隅で、ひっそりと守られてきたアトリエ
  • 眠り続けるイベリスと、その記憶を大切に抱えるリリー
  • 「最後の瞬間、あなたはどちらを選びますか?」と問う、一つのメモ
  • そして、神に従う兵士でありながら、たった一つの記憶だけは返さなかったリリーの選択

が描かれています。

この「秘密の園」は、

  • マザースフィアのネットワークから切り離された場所であり
  • 「汝の尊き記憶よ」という神の言葉すら介入しない場所であり
  • それでも、確かに誰かを想い続けている場所

です。

そして、
そこに残された記憶が、

  • のちにイヴとリリーの未来を変え
  • ひいてはマザースフィアの“神の物語”の前提を、少しだけ書き換えてしまう

ステラーブレイドという作品は、
大きなストーリー構造やエンディング分岐だけでなく、
こうした**「物語の端っこに残された、小さな選択」**を通しても、

  • 真実を知ったうえで選ぶこと
  • そしてその選択に伴う責任

というテーマを、
静かに、しかし確かに語り続けているのだと思います。

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